おれ刃。 危なくない!怪我をしないカッターナイフの刃の折り方

おれは鉄兵

おれ刃

盛り上がった背中の筋肉と丸太のような腕、右肩に大剣を担いでいるロニキスの身体には、ここに至るまでの激戦を予想させるような傷がいくつもついていて、本人自慢の体毛も、綺麗な灰色の毛があちこち赤く染まっていた。 だが、そんなものは無いと思わせるように、仁王立ちする狼人の背中は、シンヤの不安を払拭させるには十分だった。 「もう殺してもいいのかしら? 私、獣人は特に嫌いなのよっ」 「やれるものならやってくれてもいいんだぜ。 だが、簡単じゃねえことはすぐにわかると思うが、なぁっ!」 シンヤの安堵の表情とは逆に、冷えた声音のメイフィスは、美しい顔を歪ませてロニキスを睨みつけている。 手に生えた刃をそのままにロニキスへと腕を振るう。 その直後、風が吹き荒れる。 風を切るなどと生易しいものではく、まるでその一振りで空間すら断ち切ってしまうかのようなロニキスの一撃は、背後にいるシンヤのところにまで巻き起こした暴風が襲い掛かったのだ。 あまりの風に身を縮めて飛ばされないようにしているシンヤとは違い、その凄まじいばかりの剣閃をメイフィスは焦ることも無く背後に大きく飛んで躱す。 大剣が通り過ぎた直後にロニキスへと間合いを詰め、手に生えた刃で切りかかる。 その刃を、振り切った大剣の柄で無理矢理打ち返すと、メイフィスの腹に蹴りを放つ。 ロニキスの足は的確にメイフィスの腹を抉り、吹き飛ぶ女魔族を追撃するために地を蹴った。 「ぜあぁぁぁぁっ!」 裂帛の気合で叫ぶロニキスは、くの字に飛んでいくメイフィスに追いつき、握った大剣を振り下ろす。 シンヤの眼にはそのまま両断されるように見える状況だったが、掻き消えるように姿を消し大剣は空を切った。 遠目で見ていたシンヤでさえその動きを追うことが出来ず、メイフィスの姿を見失ったのだが、ロニキスが上空を睨みつけるのを見て、一瞬で空へと移動したのがわかった。 「ふう。 貴方強いのね。 少し油断してしまったわ。 この村で強い人間はあの皇子様だけかと思っていたのだけれど……」 「はっ。 油断したまま切られてくれりゃあ楽だったのによ。 あと、言っておくがリュート様に剣を教えたのは俺だ。 単純な力比べなら俺の方が強いぜ」 口元から流れ出た血を拭いながらメイフィスは空中からロニキスを見下ろす。 シンヤの身長程の大剣を再度肩に担ぎ、上空を見る狼人は口元に笑みを作り、挑発するかのように声を張り上げる。 「そう。 なら貴方を殺せばもう煩わしい虫は出てこないってことでいいのよね」 「殺せれば、の話だろ?」 「いいわ。 殺してあげる」 「シンヤっ。 いつまでそうしてやがるっ。 さっさとクロエ様を連れて逃げろっ」 翼を動かし上空から狙うメイフィスを注視しながらロニキスはシンヤに向け叫ぶ。 恐怖からか硬直していた身体は、ロニキスが来てくれたおかけで動くことが出来るようになったのだが、シンヤは二人の凄まじい攻防に目を奪われていた。 耳に響く大声で我に返ったシンヤはクロエに向かって走り出す。 「あら? 駄目よ。 皇女様は私がもらっていくんだから」 空中でシンヤの動きを察したメイフィスは、その進行方向を変えクロエに向かって降下していく。 「させねえっ!」 メイフィスの動きを見たロニキスは、握る大剣を進路に叩きつける。 寸でで減速し身を翻したメイフィスは憎々し気な顔でロニキスを睨みつけた。 「お前の相手は俺だって言ってんだろ?」 「……しつこい男は嫌われるわよ」 「はっ。 お前みたいな女は願い下げだ。 それに、惚れた女以外にどう思われようと関係ないしな」 吐き捨てるように声を出すメイフィスだったが、ロニキスにとっては口の悪いメイド以外がどう自身を罵ろうとどうでもよかったのだ。 「ほんと、気持ち悪い。 その女もどうせ死んでいるでしょう? あの村で生きている人間なんてほとんどいないわよ」 「それこそ笑えるな。 お前がどう思おうと、あいつはあの程度で死ぬような玉じゃねえ。 それに、リュート様もしぶといぜ。 本当に死体を確認したのか?」 脳裏によぎる紫のメイドが死ぬなどと微塵も考えていないロニキスは、背後で放心するクロエと、その胸に抱えている見慣れた剣を見て状況を察し、メイフィスに問いかけた。 「あれで生きていたとしても、もう死んでるわ。 今は死の刻限、死ぬ間際の人間が生きていける程優しくないのよ」 「じゃあ、生きてるだろうな。 あいつを殺したかったら、ちゃんと止めを刺さないといけねえ」 「そう思いたければ思えばいいわ。 ただご忠告通り貴方達は、皇女様以外きっちり止めを刺してあげる」 動き出したメイフィスに合わせるようにロニキスは大剣を振るう。 腕の刃で大剣を受け止め、足からも刃を出しロニキスを襲うが、腰に差してあった分厚い短剣を左手で抜いてそれをはじく。 「本当に戦いなれていて嫌になるわ。 もっと楽に踊ってほしいものね。 あの鹿人の男のように……」 「ああ? そりゃあモーリスの事かよ」 「そんな名前だったわね。 本当に強情な男だったわ」 「あいつに何しやがったっ!」 旧友の事を過去形で話するメイフィスに、憤るロニキスは大剣を片手で振りながら怒鳴りつける。 「あの男の奥さん、結界の外に探し物でもあったのかしらね。 外をうろうろしていたから捕まえて呪いをかけて帰してあげたの」 切り結びながらメイフィスの言葉を聞き、大剣の柄を血が滲むほどに握りしめる。 モーリスは愛妻家だ。 村に居る少ない獣人仲間ということもあり、ロニキスとは仲も良く、彼の妻共々よく食事をするほどだった。 「それでのこのこやってきたから、結界を解いたら貴方達だけは助けてあげるっ、て言ってあげたんだけど、強情で中々言うことを聞いてくれなくて……でも、心は迷ってくれたみたいだから操らせてもらったわ」 ロニキスのよく知るモーリスという男であればたとえ家族を盾にされても断っただろう。 だが、心は弱くなる。 そこを突かれて操られたというのだ。 村の医療を担当していた彼であれば屋敷の中を自由に動ける。 結界を解除することも可能だったのだろう。 「その後は用が済んだから二人とも仲良く首を刎ねてあげたわ」 「てめぇぇぇぇっ!」 「あはははははははっ。 いいわ。 とってもいいっ! ようやくいい顔をしてくれるようになったわね。 怒りと絶望の合わさってる素敵な顔っ」 「くそがぁぁあぁっ!」 怒りに震えるロニキスはその喉が裂けんばかりに叫び大剣を振るう。 犬歯を剥き出しにし、メイフィスを射抜かんばかりの眼で睨みつける。 「でも、もう終わり。 早くしないと逃げられちゃうから」 左の手の中に短い刃を生み出したメイフィスは、クロエを抱えようとしているシンヤに投げつける。 それに気づき、飛翔する刃を叩き落したロニキスの右腕に、メイフィスの刃が一閃。 地面にロニキスの肘から先と握りしめたままの大剣が落ちる音がシンヤの耳に鈍く響いた。

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【鬼滅の刃】心に突き刺さる名言の数々!鬼滅の刃名言まとめ!

おれ刃

いまのジャンプでまず最初に読まれる『鬼滅の刃』の強さ 『鬼滅の刃』の人気がとどまるところを知らない。 テレビ番組でいろいろと特集され、街中で人が噂をしているのを耳にする。 日本中を席巻しているようなブームである。 人を喰らう鬼たちと、それと戦う若者たちのお話である。 私は何年か前から週刊少年ジャンプを毎号読んでいるので、『鬼滅の刃』は初期のころから読んでいる。 とはいえ1話からではなく40話すぎくらいからだけど、熱心に読んでいる。 途中から読み始めたから最初はただ話を追ってるだけだったが、汽車での戦い(無限列車)あたりからぐぐぐっとつかまれ、それ以来とても熱心にジャンプで連載を追っている。 その、少年ジャンプに連載されている本編が、いま、熱い。 大詰めの大きな戦いが続いている。 毎週、目が離せない。 去年2019年の11月、土曜日に発売された最新刊ジャンプを持っていたとき、会った学生が「あ、新しいジャンプですか、鬼滅だけ読ませてくださいよ」とまだ私が読む前のジャンプを奪うようにして読み始めたことがあった。 「内容を話したら許さんからな」との言葉も聞き流して、むさぼるように読んでいた。 2019年後半から、連載からも目が離せなくなっている。 いまも、ジャンプを買うと、何をおいてもまず『鬼滅の刃』から読む。 かつての『あしたのジョー』ブームに迫るその熱狂ぶり 1973年をおもいだす。 私が高校一年だったその春は、少年マガジンに連載されている『あしたのジョー』がまもなく連載終了しそうだということで、日本中の漫画ファンが浮き足立っていた。 高校から帰る京阪電車のなかで、私の持っている少年マガジンを見つけた知らない若いサラリーマンが「あ、マガジンやん、ジョーがどうなったか見せてくれへんか」と声をかけてきたので、しばし貸したことがあった。 ジョーと世界チャンピオンとの戦いはかなり長い間続いており、すでに矢吹丈がぼろぼろになっているので、この戦いの末にジョーは死んでしまうのではないか、という噂が流れていたのだ(SNSがなく携帯電話さえなくてもそういう噂はあっという間に漫画ファンのあいだを走っていくのである)。 いったいどうなるのだ、とみんなやきもきして少年マガジンの発売を待っていた時代だった。 マガジンを貸してあげたお兄さんは、ジョーを読んだあとほかの漫画も読みつづけていたので、おれ次の五条駅で降りるから、と返してもらった。 高校に入ってすぐの春である。 それをおもいだしてしまった。 1973年の『あしたのジョー』と2019年の『鬼滅の刃』をめぐる状況は、なんだか似ているのだ。 『鬼滅の刃』人気は、突然、巻き起こった。 わかりやすくアニメ放送から起こった。 2019年4月からアニメが放送され、これで大人気になった。 アニメの力は強い。 われわれは、ひょっとしてアニメの力を借りないと漫画さえもきちんと読み込めなくなっているのかもしれない(違うとおもいたいが)。 アニメは、漫画家になりかわり、その作品の深い意図と意味を丁寧に説明する役を担ってくれている。 アニメを見てから漫画を見直すと、いくつも読み落としていたことに気づかされる。 アニメ・クリエイターの力はすごい。 アニメ化されるまでの『鬼滅の刃』人気は、まあ、ふつうだった。 ふつうというのがどれぐらいかはむずかしいところだが、ふつうに人気がある、というレベルだった。 私が引き込まれて『鬼滅の刃』をジャンプ一番の楽しみにしたのは2017年の途中からである。 でも当時、漫画好きの若者に「鬼滅っていいよね」と言っても、反応はかなり中途半端だった。 漫画好きが集まっていても(漫画おたくの集会でも)『鬼滅の刃』の話はときにスルーされるレベルだった。 2017年当時、少年ジャンプ連載で話題になっていたのは、最初の脱出を成し遂げる前の『約束のネバーランド』と、まだまだ世界がどうなるのかわからない『Dr.STONE』だったとおもう。 まだ『銀魂』も連載されていた。 『鬼滅の刃』が人気トップとは言えない状況だった。 人も鬼も隔てなく描かれる『鬼滅の刃』の深い世界 2019年4月からのアニメ放送で、世界は一変した。 多くの人がこの作品の持つ底力と圧倒的な魅力に気がついたのだ。 『鬼滅の刃』は、なぜそこまで現代人を惹きつけるのだろうか。 私が惹かれた理由は、わりと簡単である。 せつないからだ。 人の生死と運命を正面から描き、生きることのせつなさを訴えてくる。 そこに、はまった。 この優れた漫画の特徴は、すべての登場人物を丁寧に描いているところにある。 すべてに作者の感情が通っている。 それは一回きりしか登場しない者や鬼たちでも同じである。 すべてのものは、それぞれのバックボーンを持って、生き、死んでいる。 それを描いている。 言ってしまえばキャラクターの設定が細かいということだが、それは作者の創作愛が全存在に注がれている、ことでもある。 この作品はそうである。 生きとし生けるものに敬意を抱き、慈しみを持つ。 それは、主人公竈門炭治郎を通して、われわれに送られている作者の強いメッセージでもある。 悪であろうと、醜かろうと、みんな必死で生きている。 死ぬとしても、滅ぼされるとしても、それまでは必死で生きている。 その姿をみよ。 死にゆく者たちであってもその姿を直視せよ。 そういうメッセージを感じる。 強く、冷徹でありながら、愛に満ちている。 それが読む者に伝わってくる。 それを「せつなさ」ととらえるのは、これは個人の感覚だ。 人によっては「強さ」だというだろうし「愛」という人もいるだろう。 「あらゆるものに対する優しさ」でもあるし「滅ぶものを見つめる冷徹さ」でもある。 「強い哀しみに耐えること」だととらえることもできる。 いろんなものが混じり、それが混然となって読む者を圧倒的に包み込んでくる。 痺れるようにただ読み続けるしかない。 「生きることと死ぬこと」の覚悟を描く凄み 「生きることと死ぬこと」を正面から描いた作品でもある。 鬼がおり、人を襲って喰らう世界が描かれている。 それを防ごうと主人公たちは戦いつづける。 誰もがいつ死ぬかもしれない世界だ。 その空気が描かれている。 そしてわれわれの生きてる世界は、ひょっとしたらこの鬼滅の世界と同じではないのか、とふっと考えさせられる。 われわれの世界だって、ただ鬼がいないだけで、誰もがいつ死んでもおかしくない。 生きとし生けるものをいつくしむように描いているのは、それらはいつ失われてもおかしくない、とおもっているからだろう。 そういう覚悟がある。 主人公にあって、作者にある。 読者も腹をくくらないといけない。 そこに惹かれていく。 人間の敵である鬼の、その最後の瞬間の感情がたびたび描かれている。 「身勝手で自分のことだけを考えている鬼たち」でさえ、その存在が消えゆくときには、いろんな感情を抱いている。 そういうシーンがたびたび現れる。 おれは死ぬのか、と滅する直前の鬼が気づく。 このまま人を喰らいつづけてノウノウと生き続けるつもりだった鬼が、突然、とてつもなく強い剣士によって命を絶たれ、そんなことは予想もしてなかった、と驚いている。 その鬼の感情に胸が揺さぶられるのである。 退治されて当然とおもって見ていた「悪」が、かつては弱い人間だったこと、彼にも彼なりの感情があったこと、それらが最後の最後で描かれ、その意外なおもいの強さに心打たれる。 不思議な感情を手渡されてしまう。 そこがこの漫画の凄いところである。 死んで当然の「悪い鬼」が死ぬときでさえ、何かしら感情を揺さぶられるのだ。 ましてや人が死ぬときとなると。 せつない。 鬼を退治する剣士たちは、刀と自分の技術だけで戦っている。 ほかに武器がない(毒を得意とする専門部隊がいるくらい)。 刀以外は、何も持ってない。 ほぼ生身で、鬼と戦う。 正々堂々としている。 そして正々堂々はやはり脆 もろ い。 そこがこの漫画のもうひとつの魅力である。 逃げも隠れもしないが、鬼の前では圧倒的に強いわけではない。 いつもぎりぎりだ。 力をあわせ、力のかぎりを尽くし、ぎりぎりに戦う。 勝つこともあれば、敗れることもある。 正々堂々としている。 人として、こう生きなければ、とおもわされる姿である。 『鬼滅の刃』で戦う人たちは、堂々として正しい。 正しくて、せつない。 そしてさほどに強いわけではない。 そういう物語である。 「失ったものは取り戻せない」覚悟を決めて戦う物語の魅力 透徹した視点からいえば、滅びの物語でもある。 主人公やその仲間たちは、常に戦っている。 戦っているが、勝ったところで得るものはない。 勝つと、これから起こる被害を防げる、というにすぎない。 負けると失う。 そして、しばしば負ける。 仲間を失うし、身体の一部を失うこともあれば、戦闘能力を失ったりもする。 そのとき守れなかった人間をすべて失ってしまう。 ときには勝つが、勝って現状維持である。 何とか滅びを救おうとするだけの物語だ。 負けると失う。 つねに失っていく物語だ。 正しく、哀しく、せつない。 物語冒頭第一話で、主人公の炭治郎はいきなり家族を失う。 失ったものは取り戻せない。 失ったものを戻す物語ではない。 亡くなった母や弟妹は、もう取り戻すことはない。 それでも戦う。 鬼になって生き残った妹・禰豆子(ねづこ)を人間に戻す、というのは、いわば物語を前に進ませる些細な設定でしかない。 失ったものは戻せない、 勝ったところで現状維持にしかならない。 世界は祝福してくれない。 それでもきみは戦うのか、と問いづつける物語である。 戦うしかない。 小さく呟くだけで、心震えてしまう。 そう決意する人を見守っていると心熱くなる。 読んで、明るく元気になる物語ではない。 でも読んで「しっかり生きよう」と決意させてくれる物語だ。 2020年に大流行した『鬼滅の刃』は喪失の物語であった、ということは記憶しておいたほうがいい。 私たちはいま「失っても戦う話」に心を熱くしているのだ。

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鬼滅の刃で『冨岡義勇』が話題に!

おれ刃

盛り上がった背中の筋肉と丸太のような腕、右肩に大剣を担いでいるロニキスの身体には、ここに至るまでの激戦を予想させるような傷がいくつもついていて、本人自慢の体毛も、綺麗な灰色の毛があちこち赤く染まっていた。 だが、そんなものは無いと思わせるように、仁王立ちする狼人の背中は、シンヤの不安を払拭させるには十分だった。 「もう殺してもいいのかしら? 私、獣人は特に嫌いなのよっ」 「やれるものならやってくれてもいいんだぜ。 だが、簡単じゃねえことはすぐにわかると思うが、なぁっ!」 シンヤの安堵の表情とは逆に、冷えた声音のメイフィスは、美しい顔を歪ませてロニキスを睨みつけている。 手に生えた刃をそのままにロニキスへと腕を振るう。 その直後、風が吹き荒れる。 風を切るなどと生易しいものではく、まるでその一振りで空間すら断ち切ってしまうかのようなロニキスの一撃は、背後にいるシンヤのところにまで巻き起こした暴風が襲い掛かったのだ。 あまりの風に身を縮めて飛ばされないようにしているシンヤとは違い、その凄まじいばかりの剣閃をメイフィスは焦ることも無く背後に大きく飛んで躱す。 大剣が通り過ぎた直後にロニキスへと間合いを詰め、手に生えた刃で切りかかる。 その刃を、振り切った大剣の柄で無理矢理打ち返すと、メイフィスの腹に蹴りを放つ。 ロニキスの足は的確にメイフィスの腹を抉り、吹き飛ぶ女魔族を追撃するために地を蹴った。 「ぜあぁぁぁぁっ!」 裂帛の気合で叫ぶロニキスは、くの字に飛んでいくメイフィスに追いつき、握った大剣を振り下ろす。 シンヤの眼にはそのまま両断されるように見える状況だったが、掻き消えるように姿を消し大剣は空を切った。 遠目で見ていたシンヤでさえその動きを追うことが出来ず、メイフィスの姿を見失ったのだが、ロニキスが上空を睨みつけるのを見て、一瞬で空へと移動したのがわかった。 「ふう。 貴方強いのね。 少し油断してしまったわ。 この村で強い人間はあの皇子様だけかと思っていたのだけれど……」 「はっ。 油断したまま切られてくれりゃあ楽だったのによ。 あと、言っておくがリュート様に剣を教えたのは俺だ。 単純な力比べなら俺の方が強いぜ」 口元から流れ出た血を拭いながらメイフィスは空中からロニキスを見下ろす。 シンヤの身長程の大剣を再度肩に担ぎ、上空を見る狼人は口元に笑みを作り、挑発するかのように声を張り上げる。 「そう。 なら貴方を殺せばもう煩わしい虫は出てこないってことでいいのよね」 「殺せれば、の話だろ?」 「いいわ。 殺してあげる」 「シンヤっ。 いつまでそうしてやがるっ。 さっさとクロエ様を連れて逃げろっ」 翼を動かし上空から狙うメイフィスを注視しながらロニキスはシンヤに向け叫ぶ。 恐怖からか硬直していた身体は、ロニキスが来てくれたおかけで動くことが出来るようになったのだが、シンヤは二人の凄まじい攻防に目を奪われていた。 耳に響く大声で我に返ったシンヤはクロエに向かって走り出す。 「あら? 駄目よ。 皇女様は私がもらっていくんだから」 空中でシンヤの動きを察したメイフィスは、その進行方向を変えクロエに向かって降下していく。 「させねえっ!」 メイフィスの動きを見たロニキスは、握る大剣を進路に叩きつける。 寸でで減速し身を翻したメイフィスは憎々し気な顔でロニキスを睨みつけた。 「お前の相手は俺だって言ってんだろ?」 「……しつこい男は嫌われるわよ」 「はっ。 お前みたいな女は願い下げだ。 それに、惚れた女以外にどう思われようと関係ないしな」 吐き捨てるように声を出すメイフィスだったが、ロニキスにとっては口の悪いメイド以外がどう自身を罵ろうとどうでもよかったのだ。 「ほんと、気持ち悪い。 その女もどうせ死んでいるでしょう? あの村で生きている人間なんてほとんどいないわよ」 「それこそ笑えるな。 お前がどう思おうと、あいつはあの程度で死ぬような玉じゃねえ。 それに、リュート様もしぶといぜ。 本当に死体を確認したのか?」 脳裏によぎる紫のメイドが死ぬなどと微塵も考えていないロニキスは、背後で放心するクロエと、その胸に抱えている見慣れた剣を見て状況を察し、メイフィスに問いかけた。 「あれで生きていたとしても、もう死んでるわ。 今は死の刻限、死ぬ間際の人間が生きていける程優しくないのよ」 「じゃあ、生きてるだろうな。 あいつを殺したかったら、ちゃんと止めを刺さないといけねえ」 「そう思いたければ思えばいいわ。 ただご忠告通り貴方達は、皇女様以外きっちり止めを刺してあげる」 動き出したメイフィスに合わせるようにロニキスは大剣を振るう。 腕の刃で大剣を受け止め、足からも刃を出しロニキスを襲うが、腰に差してあった分厚い短剣を左手で抜いてそれをはじく。 「本当に戦いなれていて嫌になるわ。 もっと楽に踊ってほしいものね。 あの鹿人の男のように……」 「ああ? そりゃあモーリスの事かよ」 「そんな名前だったわね。 本当に強情な男だったわ」 「あいつに何しやがったっ!」 旧友の事を過去形で話するメイフィスに、憤るロニキスは大剣を片手で振りながら怒鳴りつける。 「あの男の奥さん、結界の外に探し物でもあったのかしらね。 外をうろうろしていたから捕まえて呪いをかけて帰してあげたの」 切り結びながらメイフィスの言葉を聞き、大剣の柄を血が滲むほどに握りしめる。 モーリスは愛妻家だ。 村に居る少ない獣人仲間ということもあり、ロニキスとは仲も良く、彼の妻共々よく食事をするほどだった。 「それでのこのこやってきたから、結界を解いたら貴方達だけは助けてあげるっ、て言ってあげたんだけど、強情で中々言うことを聞いてくれなくて……でも、心は迷ってくれたみたいだから操らせてもらったわ」 ロニキスのよく知るモーリスという男であればたとえ家族を盾にされても断っただろう。 だが、心は弱くなる。 そこを突かれて操られたというのだ。 村の医療を担当していた彼であれば屋敷の中を自由に動ける。 結界を解除することも可能だったのだろう。 「その後は用が済んだから二人とも仲良く首を刎ねてあげたわ」 「てめぇぇぇぇっ!」 「あはははははははっ。 いいわ。 とってもいいっ! ようやくいい顔をしてくれるようになったわね。 怒りと絶望の合わさってる素敵な顔っ」 「くそがぁぁあぁっ!」 怒りに震えるロニキスはその喉が裂けんばかりに叫び大剣を振るう。 犬歯を剥き出しにし、メイフィスを射抜かんばかりの眼で睨みつける。 「でも、もう終わり。 早くしないと逃げられちゃうから」 左の手の中に短い刃を生み出したメイフィスは、クロエを抱えようとしているシンヤに投げつける。 それに気づき、飛翔する刃を叩き落したロニキスの右腕に、メイフィスの刃が一閃。 地面にロニキスの肘から先と握りしめたままの大剣が落ちる音がシンヤの耳に鈍く響いた。

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